記憶と学習のコラム
エピソード記憶とは?体験や感情と思い出の関係を解説
初めて訪れた場所や、大切な人と過ごした一日。そのときの景色や気持ちを思い出せるのはなぜでしょう。体験を覚えている記憶の働きを、身近な例から見ていきましょう。
エピソード記憶を知るまずはここから
エピソード記憶は、自分が経験した出来事の記憶
エピソード記憶とは、自分が経験した出来事を、そのときの場所や状況とともに思い出す記憶です。例えば、旅行先で見た景色、入学式の日の様子、友人と交わした会話などが当てはまります。[1]
「あの日のこと」
経験した出来事を思い出す
「昨日、公園で家族と散歩した」など、過去の場面を振り返ります。
「知っていること」
言葉や知識を覚えている
「公園は人が集まり、遊んだり休んだりする場所」といった知識です。
記憶は写真や動画のように、出来事をそのまま保存するわけではありません。 思い出すときには、覚えている手がかりをもとに、出来事を頭の中で組み立て直すこともあります。[2]
出来事と場面のつながり
あの日のことを、何から思い出す?
「昨日の午後、公園で家族と散歩した」と思い出すとき、行動だけでなく、いつ・どこで・誰と・何をしたかという情報も手がかりになります。出来事とその場の状況が結びつくことは、エピソード記憶の大切な特徴です。[1][3]

場所が手がかりになる
同じ道を歩いたとき、以前そこで出会った人との会話を思い出すことがあります。
音や香りから思い出す
当時聞いた音楽や、なじみのある香りが、過去の場面を思い出すきっかけになることがあります。
写真がきっかけになる
アルバムを開くと、その日誰といたか、どんなことをしたかを思い出すことがあります。
気持ちを思い出す
うれしかった、緊張した、驚いたなど、出来事に伴う感情を覚えていることもあります。
すべての出来事について、日時や場所を細かく覚えている必要はありません。思い出せる範囲にも個人差があります。
知識と体験を比べる
意味記憶とは、何が違うの?
エピソード記憶は自分が経験した出来事、意味記憶は言葉の意味や一般的な知識に関わります。違いがわかると、何を覚えているのか整理しやすくなります。[1][4]
エピソード記憶
先週、初めて海を見に行った。波の音を聞き、友人と写真を撮った日のことを思い出す。
意味記憶
海は広い水域で、波があることを知っている。いつその知識を覚えたかは、思い出せないこともある。
旅先で海の生き物を知ったり、出来事をきっかけに新しい言葉を覚えたりすることもあります。2つの記憶は関わり合っています。[4]
言葉や知識を覚える仕組みは、意味記憶の解説記事で詳しく紹介しています。記憶全体の分類は記憶の種類の解説記事も参考にしてください。
日常の出来事から考える
身近な場面にも、エピソード記憶があります
特別な旅行や行事だけでなく、毎日の小さな経験も、思い出として残ることがあります。
初めての発表を思い出す
教室で発表したときの緊張や、終わったあとの安心した気持ちを覚えている。
一緒に料理した日を思い出す
家族と作った料理の香りや、楽しく話した場面が心に残っている。
初めて担当した仕事を思い出す
初日の説明、助けてもらった場面、うまく進んだときの気持ちを覚えている。
新しいことができた日
自転車で初めて長い距離を走れた日や、練習の成果を感じた出来事を振り返る。
同じ出来事でも、覚えている場面や印象は人によって異なります。
感情と記憶のつながり
うれしい出来事は、なぜ印象に残る?
うれしさや驚きなどの感情が伴うと、出来事の一部が強く印象に残る場合があります。ただし、感情が強ければ何でも正確に覚えられるわけではありません。 どの細部が残りやすいかも、出来事や状況によって変わります。[5]

印象が強く残ること
発表を終えて拍手をもらった瞬間や、思いがけずほめられた言葉を、よく思い出すことがあります。
細かい部分は曖昧なこと
その日の服装や会話の順番など、あとで思い出そうとしても自信がないことがあります。
つらい出来事を思い出して気持ちが重くなるときは、無理に詳しく振り返らなくてもかまいません。
鮮明さと正確さは別
よく覚えていることと、正確なことは違います
「昨日のことのように思い出せる」と感じても、出来事の細部まで必ず正しいとは限りません。記憶は、時間の経過や、あとから見聞きした情報によって変化する場合があります。[2][6]
自信があっても確かめる
約束の時間や日付を確認したいときは、手帳や記録を見直すと安心です。
思い出し方は人による
同じ行事に参加しても、人によって覚えている場面や感情が異なります。
思い出の内容に不確かな部分があっても、それだけで異常というわけではありません。大切な判断には、必要に応じてメモや記録も役立てましょう。
経験を振り返るヒント
体験を振り返って、次の学びにつなげよう
経験したことを振り返ると、どんな工夫が役立ったか、次に何を試したいかを考えやすくなります。大切なのは、すべてを正確に思い出そうとすることではなく、役に立った点や気づいたことを言葉にすることです。
出来事を一つ選ぶ
「今日できたこと」や「印象に残った会話」など、振り返りたい経験を一つ選びます。
場面を思い出す
いつ、どこで、何をしたかを、覚えている範囲で確かめましょう。
気づいたことを書く
うまくいった理由や、次に工夫したいことを短い言葉で残します。
別の日に読み返す
あとから見直して、学び方や進め方に変化があったか確かめます。
振り返り方に決まった正解はありません。無理のない範囲で、自分に合う方法を見つけてみましょう。
言葉にして振り返る
思い出したことを、短い文章にしてみよう
一日の出来事を短い文章で書くと、経験を言葉にして整理できます。例えば「今日は新しいキーを覚えた」「昨日より落ち着いて入力できた」など、自分の体験に沿った一文を考えてみましょう。
一文ずつ、意味を考えて入力する
- 印象に残った出来事を一つ思い出す
- その出来事を短い文章にしてみる
- 読み返してから、正確さを意識して入力する
ここでは、タイピングを、思い出した出来事を短い言葉にまとめる練習として取り入れます。
よくある疑問
エピソード記憶のよくある質問
エピソード記憶とは、どんな記憶ですか?
自分が経験した出来事についての記憶です。旅行や入学式など、過去の場面を思い出すことが例です。
意味記憶との違いは何ですか?
エピソード記憶は経験した出来事、意味記憶は言葉や物事について知っている内容を中心とする分類です。互いに関わり合うこともあります。
感情が強いと思い出しやすいですか?
感情を伴う出来事の一部が印象に残りやすくなる場合があります。ただし、すべての内容を正確に覚えられるわけではありません。
思い出したことは正確ですか?
鮮明に覚えている感覚があっても、細かな内容が変わることはあります。日付や約束などは記録で確かめる方法もあります。
日記を書くと記憶力はよくなりますか?
日記を書くと、出来事やそのときの気持ちを振り返れます。ただし、書くだけで記憶力が必ず高まるわけではありません。無理のない形で続けてみましょう。
タイピングで思い出を整理できますか?
思い出した出来事を短い文章にして入力すると、体験を言葉にして振り返れます。入力するだけで記憶力が高まるわけではありませんが、気づいたことを整理するきっかけになります。
参考資料
参考にした研究・資料
エピソード記憶の特徴、意味記憶との関係、感情による影響や記憶の正確さについて、次の研究を参考にしています。
- Tulving, E.(2002)「Episodic Memory: From Mind to Brain」Annual Review of Psychology, 53, 1–25。エピソード記憶の概念と研究の整理。
- Schacter, D. L.(2022)「The Seven Sins of Memory: An Update」Memory(記憶の誤りと再構成に関する研究レビュー)。
- Sugar, J. & Moser, M.-B.(2019)「Episodic memory: Neuronal codes for what, where, and when」Hippocampus, 29, 1190–1205。出来事・場所・時間の情報を扱う研究レビュー。
- Renoult, L. ほか(2019)「From Knowing to Remembering: The Semantic-Episodic Distinction」。意味記憶とエピソード記憶の関連を扱う研究レビュー。
- Kensinger, E. A. & Ford, J. H.(2020)「Retrieval of Emotional Events from Memory」Annual Review of Psychology, 71, 251–272。感情が記憶の想起に及ぼす影響。
- Talarico, J. M. & Rubin, D. C.(2003)「Confidence, Not Consistency, Characterizes Flashbulb Memories」Psychological Science, 14, 455–461。鮮明さ・自信と正確さの違いを扱った研究。
本文の図解は理解のための説明図です。脳内の記憶の位置や、全員に共通する記憶の流れを示したものではありません。

