記憶と学習のコラム
手続き記憶とは?タイピングや自転車の操作を例に解説
初めは指の位置を確かめていたのに、少しずつ迷わず入力できるようになる。自転車のペダルも、練習を重ねるうちに自然とこげるようになることがあります。こうした技能と記憶のつながりを、身近な例から見ていきましょう。
手続き記憶を知るまずはここから
手続き記憶は、体で覚える技能の記憶
手続き記憶とは、タイピングや自転車の運転など、練習を通じて身につけた技能に関わる長期記憶です。練習を重ねると、手順を一つずつ意識しなくても、身につけた動きができるようになることがあります。[1][2]
「どう動かすか」
練習で身につく技能
指を動かしてキーを押す、自転車でバランスを取るなど、身につけた動作に関わります。
「何を知っているか」
言葉や事実についての知識
キーの名前や自転車の仕組みなど、説明できる知識に関わります。
知識と技能は、実際の学習では関わり合います。 キーの位置を知ることも大切ですが、知っているだけで速く正確に打てるとは限りません。[3]
練習と技能の関係
手続き記憶は、どうやって身につく?
初めての動作は、一つひとつ考えながら進めることが多いものです。練習を重ねると、動きの順番や力の入れ方が少しずつ身につき、以前より滑らかに行えるようになる場合があります。こうした変化に、手続き記憶が関わっています。[2][4]
キーの位置や自転車の動きを確かめながら、ゆっくり試します。
うまくいかなかった動きを振り返り、次の練習で確かめます。
指や体を、以前より迷わず動かせるようになることがあります。
上達の速さは、動きの難しさや体調、練習方法によっても変わります。焦らず、自分のペースで取り組みましょう。
知識と技能を比べる
「知っている」と「できる」は違います
例えば、ホームポジションの位置を覚えることと、指を正確に動かして入力することは別の働きです。自転車でも、ペダルの仕組みを説明できることと、実際にバランスを取って走れることは同じではありません。

言葉で説明できる知識
意味記憶は、言葉の意味や一般的な知識と関わります。必要なときに思い出して説明できることが特徴の一つです。
動作に表れる技能
手続き記憶は、繰り返し学んだ動きや習慣などに関わります。言葉で順番を説明しなくても、できる動作があります。
動作に慣れても、間違うことはあります。 状況に応じて注意や確認を続けましょう。詳しい記憶の分類は記憶の種類の記事、言葉や知識については意味記憶の記事も参考にしてください。
毎日の動作から考える
手続き記憶は、どんな場面で働く?
手続き記憶は、特別な競技だけでなく、普段の暮らしや仕事の中にも見られます。身近な技能の例を見てみましょう。
キーボードで入力する
どの指をどこへ動かすか、練習した動きを使いながら文字を入力します。
自転車で走る
ペダルをこぎ、ハンドルを操作しながら、バランスを取る技能です。
楽器を演奏する
指の動きやリズムを繰り返し練習し、演奏に必要な動作を身につけていきます。
道具を使いこなす
包丁を扱う動きや、仕事でよく使う機器の操作なども、練習に伴う技能の例です。
脳の働きについて
技能を覚えるとき、脳では何が起きる?
研究では、手続き記憶や技能の学習に、大脳基底核、小脳、運動に関わる大脳皮質など、複数の脳の領域が関わることが示されています。[1][2]
一つの場所だけではない
技能の種類や学習の段階によって、関わる脳の働きは異なります。
練習後にも変化がある
練習を終えたあとにも、技能の記憶が安定したり変化したりすることがあります。
休息も大切
無理に長く続けるより、体調を見ながら練習し、適切に休むことも大切です。
練習を終えたあとも、技能に関わる記憶が安定していくことがあります。これは「記憶の定着」と呼ばれています。ただし、休息や睡眠だけで必ず上達するわけではありません。[4][5]
上達につなげる工夫
手続き記憶を意識した練習の4つのヒント
技能は、ただ速く繰り返せばよいとは限りません。基本を確かめながら練習し、難しいところを見直すことが役立ちます。

基本の動きを確かめる
タイピングならホームポジションや使う指を確認します。初めから速く打つ必要はありません。
正確さを意識して練習する
無理に速度を上げず、一つひとつの動きを落ち着いて行ってみましょう。
苦手な部分を見直す
いつも迷うキーや動きを確かめ、次の練習で少しずつ試します。
適度に休み、続けてみる
疲れたときは休憩し、別の日にも無理のない長さで練習してみましょう。
速さだけにとらわれず、苦手な動きを確かめながら、自分に合うペースで続けてみましょう。
タイピングで確かめる
基本の動きを確かめて、タイピングを練習しよう
タイピングでは、キーを押す指の動きにも手続き記憶が関わります。基本の指使いを確かめながら練習を重ねると、以前よりスムーズに入力できるようになることがあります。
基本を確かめて、一文ずつ入力する
- ホームポジションと使う指を確かめる
- 短い文章を、正確さを意識して入力する
- 迷ったキーや動きを振り返る
- 必要なら休み、別の日にも練習する
速さだけでなく、正確さや無理のない練習も大切にしましょう。
よくある疑問
手続き記憶のよくある質問
手続き記憶とは何ですか?
タイピングや自転車の運転など、練習で身につけた技能に関わる長期記憶です。動作として表れることが特徴です。
意味記憶とは何が違いますか?
意味記憶は言葉や事実についての知識、手続き記憶は身につけた動きや技能に関わります。実際に何かをするときは、両方が関わることもあります。
自転車の乗り方は忘れないのですか?
一度身につけた技能が長く残る場合はありますが、必ず忘れないわけではありません。久しぶりに行うときは、安全を確かめながら少しずつ再開しましょう。
タイピングは練習で速くなりますか?
練習によって動きに慣れ、入力がスムーズになる場合があります。上達には個人差があるため、速度だけでなく正確さも確かめながら進めましょう。
手続き記憶は脳のどこにありますか?
大脳基底核、小脳、運動に関わる大脳皮質など、複数の領域が技能の学習に関わります。一つの場所だけが関わるわけではありません。
練習を休んでもよいですか?
はい。疲れたときは休憩しましょう。練習後にも技能の記憶が変化することがあります。次の練習は、体調に合わせて少しずつ再開してください。
参考資料
参考にした研究・資料
手続き記憶の分類や技能の学習、練習後の変化について、次の研究資料を参考にしました。
- Squire, L. R.(2004)「Memory systems of the brain: a brief history and current perspective」Neurobiology of Learning and Memory, 82(3), 171–177。異なる記憶システムを扱うレビュー。
- Squire, L. R. & Dede, A. J. O.(2015)「Conscious and Unconscious Memory Systems」Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 7(3)。宣言的・非宣言的記憶の分類と脳の関連領域。
- Vidoni, E. D. & Boyd, L. A.(2007)「Achieving enlightenment: what do we know about the implicit learning system and its interaction with explicit knowledge?」Journal of Neurologic Physical Therapy, 31(3), 145–154。明示的な知識と技能学習の関わり。
- Robertson, E. M., Pascual-Leone, A. & Miall, R. C.(2004)「Current concepts in procedural consolidation」Nature Reviews Neuroscience, 5, 576–582。練習後の技能記憶の定着に関する研究レビュー。
- Kim, T. & Wright, D. L.(2021)「Exposure to Sleep, Rest, or Exercise Impacts Skill Memory Consolidation but so Too Can a Challenging Practice Schedule」eNeuro, 8(5)。練習計画と技能記憶の定着に関する論考。
図解は、知識と技能の違いや練習の進め方をわかりやすくまとめたものです。脳の働きや上達の過程を、そのまま表したものではありません。

