ワーキングメモリと短期記憶の違いとは?身近な例でわかりやすく解説

ノートとパソコンを前に考える女性

記憶と学習のコラム

ワーキングメモリと
短期記憶の違いとは?身近な例でわかりやすく解説

「少しの間、覚えておくこと」と、
「覚えた情報を使いながら考えること」。
似ている2つの記憶の働きを、日常の例から整理します。

違いを比較仕事・勉強の例今日からの工夫
まず違いを知る

はじめに知っておきたいこと

違いは「覚えておく」か、「覚えながら使う」か

短期記憶とワーキングメモリは、どちらも情報を一時的に扱う働きです。大きな違いは、情報を保つことに注目するか、保ちながら考えたり操作したりすることに注目するかにあります。

短期記憶

一時的に情報を保つ

聞いた数字を、少しの間だけ覚えておくような働きです。

例:伝えられた番号を、入力するまで覚えておく
ワーキングメモリ

保ちながら情報を使う

覚えた数字を使って計算するなど、作業や思考を進める働きです。

例:聞いた金額を覚えながら、おつりを計算する

補足:これは理解しやすくするための基本的な整理です。研究上は両者の定義や測定方法に違いがあり、きれいに分けられるとは限りません。参考文献[1]・[3]

まず全体像を整理

短期記憶とワーキングメモリの違いを比較

2つの記憶は、使う場面が重なることもあります。違いを理解するには、情報をどう扱っているかに注目するとわかりやすくなります。

短期記憶とワーキングメモリの比較表
比較する点短期記憶ワーキングメモリ
中心となる働き情報を一時的に保持する情報を保持しながら、必要に応じて操作・更新する
身近な例電話番号を短時間だけ覚えておく番号を覚えつつ、指定された順番に並べ替える
意識したいこと覚えた情報が必要な間、保たれているか保持している情報を使って、作業を進められるか
両者の関係ワーキングメモリと重なる部分がある一時的な保持の働きを含む理論モデルがある

※ 学説によって言葉の使い方は異なります。この表は、代表的な考え方をわかりやすく整理したものです。参考文献[1]〜[4]

短期記憶では3・5・7という数字を一時的に保ち、ワーキングメモリではその数字を保ちながら合計15を計算する例を比較した図短期記憶では3・5・7という数字を一時的に保ち、ワーキングメモリではその数字を保ちながら合計15を計算する例を比較した図
短期記憶は一時的な保持、ワーキングメモリは保持しながら使う働きに注目した説明例です。実際の働きは互いに重なる部分があります。

暮らしのなかで考える

身近な4つの場面で比べてみよう

難しい実験だけでなく、買い物や勉強など、いつもの生活でも2つの働きが役立っています。

01 買い物

価格を覚える・おつりを考える

短期記憶:商品の価格を会計まで覚えておく。
ワーキングメモリ:複数の価格を頭に置きながら、合計や残りの予算を考える。

02 勉強

単語を覚える・文章を理解する

短期記憶:先生から聞いた単語を少しの間覚えておく。
ワーキングメモリ:文章の前半を覚えながら、後半と結びつけて意味を考える。

03 仕事

指示を覚える・順序を考える

短期記憶:伝えられた作業内容を一時的に覚えておく。
ワーキングメモリ:複数の指示を頭に置きながら、優先順位を決める。

04 タイピング

文字を保つ・文を組み立てる

短期記憶:画面で見た短い文字列を覚えて入力する。
ワーキングメモリ:伝えたいことを頭に置きながら、文章の順番や言葉を選んで入力する。

同じ場面でも、2つの働きは重なります。

「これは短期記憶だけ」「こちらはワーキングメモリだけ」と分けられない場合もあります。大切なのは、情報を覚えておく役割と、使いながら考える役割を理解することです。

研究ではどう考えられている?

2つの働きは、密接につながっている

心理学者アラン・バドリーは、ワーキングメモリを、一時的な情報の保持に加えて、その情報を扱う働きも含む仕組みとして説明しています。[2]

一方、ネルソン・コーワンのレビューでは、短期記憶とワーキングメモリには複数の定義があり、研究者の立場によって区別の仕方が異なることが示されています。[3]

共通していること

どちらも、しばらく覚えておく

どちらも、必要な情報を短い間扱うことと関係しています。

ワーキングメモリの特徴

覚えながら、考えたり使ったりする

ワーキングメモリでは、情報を頭に置きながら作業を進める働きが重視されます。

知っておきたい違い

はっきり分けられないこともある

両者の重なりを指摘する研究もあり、ひとつの定義ですべてを説明できるわけではありません。[4]

2つの記憶を、まったく別のものと考える必要はありません。覚えておくことと、覚えた情報を使って考えることは、日常のなかでつながっています。

負担を減らす工夫

勉強や仕事で、今日からできる4つのこと

記憶の働きを知ると、すべてを頭の中だけで処理しようとせず、やり方を工夫できます。

情報を短く区切る、メモに残す、一つの作業に集中する、内容を自分の言葉で思い出すという4つの工夫をまとめた図情報を短く区切る、メモに残す、一つの作業に集中する、内容を自分の言葉で思い出すという4つの工夫をまとめた図
覚える内容を分ける、メモする、集中する、思い出す。自分に合いそうな方法から試してみましょう。
01

覚える内容を、短く区切る

長い説明を一度に覚える代わりに、意味のまとまりごとに確認します。教科書なら見出しごと、仕事の手順なら作業ごとに分けると、確認する内容がはっきりします。

02

複数の手順はメモに残す

やることが多いときは、順番を書き出してみましょう。覚えておくことへの負担を減らし、目の前の作業に注意を向けやすくできます。

03

ひとつの作業に集中できる環境を整える

作業の途中で何度も別のことに切り替えるより、今取り組むことを明確にすると、考えを整理しやすくなります。

04

説明したり、思い出したりして確かめる

文章を読むだけでなく、内容を自分の言葉で説明できるか確認します。覚えることと、覚えた情報を活用することの両方に目を向ける方法です。

これらは、覚える負担を減らして学習や仕事を進めるための工夫です。ワーキングメモリの能力そのものが高まると保証するものではありません。また、専用の記憶トレーニングが学力や知能など別の能力にも広く役立つという十分な根拠は、現時点では確認されていません。参考資料[5]

理解したことを、練習へ

タイピングでも「覚える」と「使う」を意識してみよう

タイピングをするときも、見た文字をしばらく保持したり、文章の意味を考えながら入力したりします。入力の速さだけでなく、言葉の意味にも目を向けると、学びを振り返るきっかけになります。

取り組み方の一例

文章を読んで、意味を考えながら入力する

  1. まず文章を落ち着いて読む
  2. 意味を考えながら、正確に入力する
  3. 入力後に、内容を自分の言葉で説明してみる

タイピング練習だけで記憶力全般が向上すると確認されたわけではありません。ここでは、文章を理解して振り返る学習の工夫として紹介しています。

よくある質問

迷いやすい疑問をまとめました

短期記憶とワーキングメモリは、同じものですか?

同じ意味で使われることもありますが、一般的には短期記憶を「一時的な保持」、ワーキングメモリを「保持しながら使う働き」に注目して説明します。ただし、研究上の定義はひとつではなく、両者は重なっています。

暗算はワーキングメモリを使いますか?

はい。例えば「27+18」を暗算するとき、数字や途中の計算結果を頭の中に置きながら計算を進めます。こうした働きは、ワーキングメモリを説明する身近な例です。

短期記憶と長期記憶はどう違いますか?

短期記憶は情報を短い間保持する働きに注目した概念で、長期記憶は比較的長い期間にわたって保持される記憶です。短期記憶に入った情報がすべて長期記憶になるわけではありません。

タイピングでワーキングメモリは鍛えられますか?

タイピングには、見た文字や文章を保持して入力する場面があります。ただし、タイピング練習だけでワーキングメモリ全般の能力が高まると断定できる根拠はありません。Typing Coachでは、入力の練習とともに文章の意味を考える学び方を提案しています。

作業の途中で忘れるときは、どうすればよいですか?

手順をメモに書く、作業を小さなまとまりに分ける、順番を確認してから始めるなど、記憶だけに頼らない工夫を試せます。忘れ方が急に変化したり生活に大きな支障が出たりする場合は、適切な医療機関への相談も検討してください。

参考資料

参考にした研究・資料

本文で紹介した考え方を詳しく確かめたい方は、以下の研究や資料をご覧ください。

  1. American Psychological Association(2018)「short-term memory」「working memory」(APA Dictionary of Psychology)
  2. Baddeley, A.(2012)「Working Memory: Theories, Models, and Controversies」Annual Review of Psychology, 63, 1–29.
  3. Cowan, N.(2008)「What are the differences between long-term, short-term, and working memory?」Progress in Brain Research, 169, 323–338.
  4. Aben, B., Stapert, S., & Blokland, A.(2012)「About the Distinction between Working Memory and Short-Term Memory」Frontiers in Psychology, 3, 301.
  5. Melby-Lervåg, M., Redick, T. S., & Hulme, C.(2016)「Working Memory Training Does Not Improve Performance on Measures of Intelligence or Other Measures of “Far Transfer”」Perspectives on Psychological Science, 11(4), 512–534.

この記事は、記憶について学ぶための一般的な情報です。記憶に関する健康上の不安がある場合は、医療機関などの専門家にご相談ください。

学びを、次の一歩へ

覚えることも、考えることも。
自分のペースで、少しずつ。

記憶の働きを知ったら、身近な文章に触れてみましょう。意味を考えながら、落ち着いて入力する時間も大切です。

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